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ツバルから来たモイ

2006.10.13 (Fri)
モイは、南太平洋に浮かぶ海抜の低い島々、ツバル諸島のどこかの島からやってきたということだった。

モイの家族は、代々漁りを生活の糧にしていたそうだが、
波による侵食が加速し浜は流され、故郷での仕事は続けられなくなった。

モイはもともと働き者で気立てもよく、人が嫌がる仕事であっても、もくもくとこなしていく若者だった。
やがてマグロ漁船に職を見つけてニュージーランドに移住をし、そして荷卸をする船とともに、ツナ缶工場があるこの島、米領サモア・ツツイラ島へやってきた。

モイは、見上げるほどの体躯の持ち主、屈強なポリネジアンの若者。褐色の肌、黒い髪、彫りの深い表情……近寄りがたい、威厳のある風貌だったが、彼の笑顔は、まさに「こぼれる」という表現がピッタリで、周りのみんなの頬も緩んだ。

ニコニコと重労働をこなし、しかもたいそうな力持ちなので、漁船でともに働くフィリピン人の乗組員たちと、とても親しくやっていた。

「モイが1人いると、航海がとてもラクになるんだよ」近所に住む漁船乗組員のフィリピン人は言っていた。
モイは、船が港に着くたびに、この家族に招待されて食事をともにしていたようだ。

スコールが島を駆け抜けていった夕方、私は家周りの落ち葉を掃いていた。山の斜面をフラリと下りてきたモイが私に気がつき、立ち止まって手を振った。

私が手を振り返すと、雨上がりの緑を背負ったモイは、いつもの、あの笑顔をほころばせた。

 「来週船が出るから、今夜はお酒を飲みにいくんだよう」
 「ああ、そうなんだ。おいしいお酒飲んで、良い旅をね。大漁になるよう祈っているよ」

モイのこの島での唯一の楽しみは、出航前にバーで飲む冷たいビールだそうだ。
仲良しのフィリピーノ家族にごちそうになった後、自分へのご褒美のために1人でバーに向かうのだという。

 「俺ねえ、最近、彼女できたんだもんね」

Tシャツと膝丈で切ったGパン、ビーチサンダル。
ここらの人の標準着みたいなものだが、なるほど、彼女ができたと言われれば、Tシャツはヘタレてはおらず、Gパンはまだ藍色をしており、髪の毛には油がなでつけてあるようだった。

 「あーら、いいねーえ、うれしいねぇ。モイは、ハッピーだ」
 「えへへへへー。そうだよ、ハッピーだよぉ」

モイはこぼれる笑顔をさらに輝かせながら、そこに咲いていた朱赤のハイビスカスを一輪手折って香りを嗅ぎ、そのまま花をもてあそびながら、てくてくと港へ続く坂道を下っていった。

……それが、最後の見送りになった。

モイはその夜、バーで大好きなビールを飲んでいるときに、後ろからアタマを固い物で殴られ、あっけなく、「帰らぬ人」となってしまった。

どうして後ろから……?
ケンカになったとしたって、いくらなんでも卑怯じゃないか。
いや、あのモイがケンカなんかするか?
評判になっている"不良サモアン"とやらに、随分イヤなことを言われたんじゃないのか?
サモアンの中には、人種差別を趣味にしているようなヤツもいるからな。

……暗闇は、こんな小さな南の島の、ささやかな港町にもあるものだ。

仲良しだった乗組員や家族が、やりきれぬ怒りに身を焼いていた時、モイの父親と弟が、ふいに彼らの家へ訪ねて来たそうだ。

かける言葉も見つからず戸惑う人々を前に、老いたお父さんは言ったのだそうだ。

「私の息子は、『故郷は失ったけれど、良い人たちと出会い、みんなに喜ばれて仕事をしている』と、いつもうれしそうに自慢していた。
だから彼にかわって一言、お礼を言うためにきたのだ。みんなの記憶からモイが消えてしまう前に、どうしても伝えておきたかったから」

悲しみを、怒りや恨みに転化せず、ただ悲しみとして受け入れるのは、深く鋭い痛みを伴うものだ。
しかしモイの家族は、深い痛みを感謝で包み、まるごと受け入れようとしているようだった。

そこに居合わせた全員が、それまで翻弄されていた怒りから解き放たれるように我に返ったという。
そしてあらためて押し寄せてくる深い悲しみに、みんなで涙にくれたそうである。

老父はお礼を繰り返し、やがて、モイの弟にかつがれるようにして、帰っていったのだそうだ。

港へ続く坂道を下るとき、老父が最後に振り返って見せてくれた笑顔は、
まさしく、モイのあの、こぼれるほどの笑顔であった、ということだった。


Misako(C)
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ツバルツバルは、オセアニア|オセアニア州の国。首都はフナフティ。南太平洋のエリス諸島に位置する島国である。バチカンを除くと、独立国としては最も少ない人口の国でミニ国家の一つである。海抜が低いため(最大5m)、将来海面が上昇すると、この国の
ツバル | 歩未の日記 at 2007.04.03 07:53
コメント
■ペンギン村のペンちゃんさん♪
あたたかいお気持ち、ありがとうございます。

寿命という限りある時間の中(そしてそれがいつ断たれるのか誰にもわからないという中)、
与えられた能力を使い切って命を終えるのが、
書いて字のごとく「使命」といえば使命なのかもしれないですね。
水砂子 | 2012.10.09 20:26 | 編集
こんばんは。

何と言ったらいいのか。。。いい人すぎると、俗世間に長くいられないのかなあ、っていうようなことを思いますた。

そして、それでも人は生きていく、とも。。。
ペンちゃん | 2012.10.09 06:48 | 編集
桃組さま、ありがとうございます。
そうですね、本当に。
こればかりは根が深い問題なので、
みんなが「地球人」になるまでの宿題かもしれませんね。
水砂子 | 2006.11.04 02:29 | 編集
どうしたら、モイやお父さんやのような笑顔が出来るようになるのかな?

愚かな人間の歴史を考えると、根深い人種差別が無くなるのは、地球の人々が混ざり合うずっと先の未来になるのかも知れませんね。
桃組 | 2006.10.23 05:13 | 編集
海山人さま、ありがとうございます。
私も、とても複雑な思いです。
もちろん、平和でピュアな人々の方が多いのですが、アジアンや他の島の人を見下したりする人も目に付くのが、とても残念です。
この雲は、光と風に踊っているようですよね。
お見せできて嬉しいです。
水砂子 | 2006.10.19 21:28 | 編集
zazenさま、暖かいメッセージをありがとうございます。
なんだかあまりにも突然で、挨拶程度しかしない私にもとても悲しい事件でしたが、
モイのお父さんの芯の強い愛で、別の涙がたくさん出ました。
また、ツバルという島が本当に沈みつつある現実も、恥ずかしながら今更目の当たりにし、…驚きました。
それをすることで問題の全てを解決できなくても、自分ができることを少しずつやることは、とても大切なんだな、と思った次第です。それすらも難しいのが現実ですが、諦めずに…。
この空は、オーストラリアの東、ゴスフォードという小さな町に近い、アボカビーチの空です。
空が近いビーチだよ、と地元の人に教えてもらったのですが、空も雲も、本当に近かったです。
水砂子 | 2006.10.19 21:23 | 編集
どうコメントしてよいものか?悩んでいました。モイの父親の心境になれるのか…
複雑です。その前に何故?殺されたの…
が先で、人種差別事態が腹立たしくて。
同じ地球上に住んで、同じ生物、同じ人間
なのに…。悲しいです。

水砂子さんの撮った写真に癒されています。この不思議な雲をずっ~とみていました。
海山人 | 2006.10.14 21:50 | 編集
 お話も写真も素晴らしいです。感動しました。
 私はモイのお父さんのような心配りをする自信がありません。いざというときに、このように行動できるかどうか分かりません。
 でも水砂子さんの文を読んで力づけられました。私にもできるかも知れない、と希望を抱かさせていただきました。少なくとも強烈な印象として残ります。ありがとうございました。
 それにしましても、この写真はどこの国の空なのでしょうか。日本の空には出現しない風景だと思います。
 素晴らしい写真です。太陽からの線条光が虹の色を成して静かに流れる白雲を突き抜けて・・・・・、
私には言葉で表現できません。
 ありがとうございました。
zazen256 | 2006.10.13 12:11 | 編集
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